東京高決令元11.25
下の東京高決令11.25が元となり、熟慮期間の開始時期等の検討の基準となっています。
{事件の概要}
被相続人にの死亡後2年後に一度相続放棄の申述を行ったが相続放棄が受理されず、却下となり、申述者はこれを不服に思い即時抗告しました。
幸いにして抗告後一転して、原審判取り消し、受理される結果となり、無事相続放棄の申述が受理されることになった事件が元となっています。
【事件の詳細】
被相続人にの姉の子供3人が法定相続人の事件で、相続人は、面倒に巻き込まれる前に、その相続人3人のうちの代表一人だけが、相続放棄を家庭裁判所に対し申し立てて、残りの2人は代表が相続放棄すればそれだけで足りると解釈しました。残る2人は相続放棄を申し立てしなかったのです。
その相続放棄申述書には、その代表一人の名前だけが記載されてありましたが、収入印紙は3人分入ってありました。
ある日、市役所から電話があり、被相続人の固定資産税2万9千円が未納であるという通知が来ました。そこで相続人の2人は、初めて全ての相続人が相続放棄必要であることを聞かされるのです。
そこで、残りの相続人2人も慌てて、管轄が同じ家庭裁判所に相続放棄の申述を行うことにしました。
ところが、家庭裁判所は、(前橋家太田支審令元9.10)
民法915条が1項が定める相続放棄の熟慮期間について、市役所から一番初めに書類が来た日付を起算日とすべきであり、本件の相続放棄の申述は、それ以降になされているとして、申述を受理せず却下したのです。
それを覆すために。2人は、慌てて家庭裁判所に抗告したのは言うまでもありません。
そうして幸いにも、高裁で本事件は再審理され高等裁判所は、以下のように決定を取り消し、受理することになりました。
理由は以下です。
相続人の2人が相続放棄が遅れた理由は、自分たちの相続放棄の申述は、もう既に完了していると誤解が大きな原因でかつ、被相続人の財産についての情報が不足しておりこれも、被相続人との疎遠な関係が起因していることもありこのような特別の事情を考慮すると、
民法915条1項の熟慮期間の起算日は、固定資産税の具体的な額についての説明を市役所の職員から受けた時期から進行を開始するものと解するのが相当であると、一度家庭裁判所で不受理が決定した事案を、高裁が取り消して受理することが適当であると示した事案です。
これには続きがあり、理由として
相続放棄の申述は、相続放棄の実体要件が具備されることを確定されるものではない一方これを却下した場合は、民法938条の要件を欠くことになり、相続放棄したことが主張できなくなることを考えれば家庭裁判所は、却下すべきことが明らかな場合を除き相続放棄の申述は、受理することが相当であると、
一般の方に分かり易く言い換えると
(民法の相続放棄の要件を厳格にしすぎると、債権を放棄する方法は、相続人達は、事実上相続放棄しかないのにこれでは救済措置がなくなることは明確なので、相続放棄の熟慮期間の要件は緩やかでなければならない。)
と理由まで述べられています。
上記のように、一応、相続放棄の申述は、
高裁で””却下すべきことが明らかな事例を除き受理すべし””
とあるわけですので、これが一応の目安となり、3か月を過ぎても理由があれば受理すべきで余程のことでない限り不受理は出来ないとなろうかと思われますが、
上記の例は、代表だけが相続放棄をすれば足りると誤解があり、3人分の収入印紙を同封してきていることも考慮された可能性が高く、決して安心できるものではないのも事実です。
以下にも参考になる例を列挙してみました
広島高裁 昭和63年10月28日決定

(事案の概要)
被相続人と30年以上別居・連絡を一切なしだった妻子が死亡から5か月後に債権者からの通知で初めて債務の存在を知り、相続放棄を申述。
【裁判所の判断】
相続人と交流が全くなかったこと、資産や債務について知らされなかったことながら、相続財産が存在しないと信じるに相当な理由があると認められ、相続放棄が認められました。
名古屋高裁 平成19年6月25日決定

(事案の概要)
被相続人に遺産があると知っていたが、遺言により他の相続人が相続すると信じていた相続人が、死亡から1年後、保証債務の存在を知り相続放棄を申述した。
【裁判所の判断】
遺言の存在や日常生活で債務の存在を知り得なかったことから、自らが相続する財産がもうないと信ずることに足りる相当な理由があるとして、相続放棄が認められた例。
仙台高裁 昭和59年11月9日決定

(事案の概要)
被相続人の兄弟姉妹が、被相続人の被相続人前妻との子が相続人であると間違って信じてしまい、3か月間相続放棄を行わなかったが、その後、自分たちが相続人であることを知り、相続放棄を申述した例。
【裁判所の判断】
自分たちが、相続人であるという事実を知った(法的間違えて解釈しており、後に私たちが相続人であることが正しい)時点から、熟慮期間を開始すべきとし、相続放棄が認められました。